エジプト22
エジプト22
0503
憲法記念日。日本ではあのポンコツ内閣のもと、この日をどう「祝って」いるのだろうか。
朝、Aが日本に帰った。
そのあと、食堂でエジプト人の学生と思しき何人かの新しい宿泊客と遭遇。そのうちの一人の女性が話しかけて来たので聞くと、カイロから南に2時間程のベニスーフと云う街から来たとのこと。集中講義聴講のためだろう。食事が運ばれて来たので食べ始めたら、ボクに運んでくるものと内容がまるで違う、というかこちらには過剰にいろんなものがついていることが発覚。レンティルスープもボクだけ。生野菜サラダもボクだけ。茄子炒めもボクだけ。玉子を目玉焼きにしてくれているのはボクだけで、他の客は中身無しのオムレツと乾涸びたハムとチーズの皿、味の無いフール。なんだか居心地が悪くなってコーヒーが来る前に早々に引き揚げた。それにしても、今日初めて登場したあの毒々しい緑色のジュース、アルコールも入っていないのにこれほど強烈な色の飲み物を久し振りに見た。一口飲んで絶句。だが、今日はパンが美味かった。
0504
金曜。散歩するつもりだったが風が強いのを言い訳にしてやめた。朝食は白飯にフリカケ+味噌汁で済まし、食堂には行かない。
ホラーチャンネルをつけると、何とアラン・ポーの『The Raven』(大鴉)が始まったところ。寒さのため見送られた「ときの忘れもの」の冬のコンサートにの代わりにエジプトに飛んで来てくれたのか。思いがけない遭遇にうれしく/こわくなり、集中して見てしまう。淡野さんにメール。
洗濯しにH棟に行くのに最近はフェンスに鍵がかかっていて敷地の外を歩かなければならない。H棟に行くと、1階の床が水浸しになっている。洗濯機から床に直接水が出てしまっていたようだ。ボクの所為にされても困るのでアリバイづくりに石原さんの部屋をノックしたら奥様が出て来られた。ホースが排水口から外れて水を撒き散らしていたらしいが、元に戻したのでこれ以上は漏れ出ないと思う。床の水はそのうち乾くでしょうし、などと会話をして一旦部屋に戻る。洗濯物を取りに行くと、脱水機がうまく動いておらずどっぷり濡れたまま。
昼は「ハムそばじゅるり風」をつくり美味しく食べる。
ホラーを見続ける。次は「Train to Busan」ゾンビの出てくるホラー、全編韓国語でアラビア語字幕。ホラーにこれほど泣かされるとは思わなかった。『新感染・ファイナルエクスプレス』という邦題で日本でも公開したようだが、誰がつけたんだか、この邦題は良くない。
ところで、この映画チャンネルのCMは、毎回ダイエット飲料の「Dr.Ming」がヘビロテで流されているのだが、この「Dr.Ming」、パッケージに印刷されている「Dr.Ming」の肖像とおぼしきは、あからさまに1万円札の福沢諭吉だったりして、やたらと親近感を持ってしまうのは如何なものか。ダイエットに成功した人として登場する人たちが皆ポッチャリ系なのも日本とはだいぶ違う感じ。
次は「Glass House」どこかで前見たことのある映画。多分日本のテレビ。タイトルが無闇にアイコニックな建築を連想させるが、出てくる建築はただの豪邸でどうということも無い。ダイアン・レイン、昔は好きだったんだが、なぜ好きだったのか思い出せない。
夕食は野菜焼き一本槍。茄子、ニンジン、オクラ、パプリカ、青唐、ズッキーニ、これらをニンニク/アンチョビ/オリーブオイルで焼くだけ。塩胡椒で食べると美味い。日本の味の無い野菜とは違って、エジプトの野菜にはしっかりとした味がある。
続いて「Let the right one in」スウェーデン式小さな恋の物語的吸血鬼ホラーはひと味違う。血はさほど飛び散らないで、音無しく流れ吸われる。大きな音は断片的で、基本的には静寂の中物語が進行する。抑制が利いているので現実感とともに恐怖感も増す。秀作。
0505
こどもの日。
曇っていて風もなく、気温もそれ程高くなさそうなので、朝食のあと散歩することにした。宿舎を南側に出て東に折れ、北に向かってボルグエルアラブの街中を歩き、銀行街を西に進み、さらに南に曲がって大きく長方形コース。約6km。工事中の住宅が多いが、ほとんど廃墟に見える。また、実際人が住んでいるところも廃墟に見える。100年も保たないような消耗品としての住宅建築は一般的には竣工時が建築の唯一瞬の完成形で、その他の全ての期間は工事中か崩壊中だ。だが、この辺りの住宅は工事期間が無闇に長いし、竣工する前から住み始める習慣があるので、どの一瞬が完成形だかまるでわからない。新陳代謝を続ける生き物のように街は常に動いている。メタボリスティックな様相が自然に現出している。日本で一時期流行ったイズムとは違い、継続的な現実として目の前にある。ダイナミックだけど、汚い。掃除しろ。
街歩きすると、そこに暮らしている人たちの生活が生々しく見える。大きなお世話かもしれないが。この子供たちはどんな人生を送ることになるのだろうか?ひるがえり、自己実現とか勝ち組とか、嫌な言葉が大手を振って歩いている国の子供たちはどんな未来を迎えるのだろうか。まだ安倍も麻生も辞めてないし。ふと、高橋源一郎が毎日新聞の人生相談コーナーで子育ての方針についての質問を受け(20180430)、それについての返答が素晴らしかったことを思い出した。「愛してあげてください。それだけでいいじゃないですか。他のことなんかどうでも。」
娘のYが保育園に通っていた時、時々迎えに行くことがあった。あるとき迎えに行ってみると、他の園児は皆帰り、娘は最後まで熱心に1人で遊んでいた。保育園の先生が「お父さんが待ってるから、早く帰りましょう」と娘に声を掛けると、「いいの、待っててもらって。アッパはYのことが世界で一番好きだから」だと。娘は忘れられない思い出をたくさんつくってくれた。
チャンネル1274はホラーだけじゃなかった。「The Count of Monte Cristo」が始まったので見る。デュマの本も読んでるのだが忘却の彼方。中学時代の「必読図書」はコヤシになっている筈だが、全部忘れてしまった。『モンテクリスト伯』は再読してみよう。長期の駐在向きだ。主人公は「Passion」でキリストを演じていたジェームズ・カヴィーゼル。砂漠の幽閉中に見る孤島の刑務所の物語。
夕方もう一回散歩。今日は合計で11000歩越え。小さい達成感。
夜はステーキと野菜とグランマルキの赤。ステーキはAに教えてもらった通りやってみたらうまくいった。
夕食後はホラー「Shutter」。日本でロケしたアメリカ映画。和風サイコホラーの手法で制作されている。奥菜恵が幽霊役で出演。チャラいコマーシャルフォトグラファーの男にイラっとさせられるのは脚本にまんまとはめられている証拠。アメリカ映画にしては良く出来ていると思ったら、監督は日本人、製作には「リング」にも携わった日本人が起用されていた。味噌汁うまいなぁ、と思うのと一緒か。
2018年5月3日木曜日