エジプト2
エジプト2
0302
昨日、考古学者の菊地さんから教えてもらったプトレマイオス期の「要塞」と、同時期の大灯台を模した「墓」と呼ばれている遺跡を訪ねることにする。
丘の上に見える遺跡は高い石壁に周囲を囲まれている。丘はかつて建材だったであろう風化した石の瓦礫野原。それと、明らかに人為的に作られた素焼陶器の破片が丘の表面を埋め尽くしている。2000年以上前のもの。
ふと気づくと、前を歩いているKの体に無数の蚊がとまっている。ヒー!!自分の体にはそれ程ついていないが、Kは全身黒い色を着ているからなのか、蚊の攻撃目標になってしまっている。刺されると面倒な病気になったりするのだろうか。今回は予防接種を受けていない。
手で蚊を払いながら、不自然な格好で歩くこと数十分、ようやく丘の頂の遺跡に着いた。地中海、内陸部に地中海と並行して延びる湖、南側の砂漠地帯、360°の完璧な眺望。菊地さんによると、プトレマイオス期には、荒れる地中海ではなく、航行の容易な内陸の湖が航路として使われていたと云う。今は地形の変化で湖はとぎれとぎれになっているが、この遺跡はこの湖の航行の安全を守るための施設だった。入口と思しき場所には、神殿と同じ形式でパイロンがそびえている。潮風に洗われていたのだろうが保存状態はそれ程悪くない。
周囲の石壁に囲まれた矩形の中庭には、なぜか白いテントが張ってある。ヤバイ。ベドウィンが住んでいるんじゃないか?見つからないように、灯台を模した「墓」に行くことは諦め、同じ蚊の道をあわてて帰ることにする。と、1人の男がどこからか現れ、ついて来た。友好的な感じではない。蚊を払いながら、走らず、しかし急ぎ足で瓦礫の丘を下る。
アレキサンドリアに行く。
ポンペイの柱は、アレキサンドリア西部の市街地、下町的雰囲気を醸し出しているごちゃごちゃしたエリアの一角にスコンと抜けた広場があり、その中央に聳え立っている。高さ30mの赤色花崗岩の一本柱。柱頭部にはコリント的装飾を戴き、柱脚部は複数の巨石が組み合わされている。実に男らしい。そして周囲には地下空間が蟻の巣のように広がっている。アレキサンドリア図書館の跡地なのか、セラピス神殿だったのか、諸説ありはっきりしない。
カタコンベに向かう途中で、行進する群衆に巻き込まれる。数百人はいたかもしれない。最初は何かのデモ行進だと思ったが、葬儀の隊列だった。皆、神妙な顔をしている。最初のうちは男たちだけだと思ったら、黒い服を来た女性たちは彼女たちだけで固まって歩いている。遺体が乗せられているであろう車も、同じスピードで進み、車のまわりの人は片手を車に触れたまま歩いている。普段クラクションを鳴らしまくっているエジプトの車が、音を発せず、行進が通り過ぎるのを静かに待っている。エジプトの葬儀・埋葬に関し興味が湧く。
カタコンベという言葉はローマのそれが有名だが、「墓場」の一般名詞なのだろう。特にキリスト教徒の隠れ教会堂というわけではない。このアレキサンドリアのカタコンベは実に建築的魅力に溢れている。地上に頭を出している入口の螺旋階段を降りていき、一旦おりきった場所から空間が水平に軸線を伴って広がっている。中心軸の突き当たりにこの墓所の中心的な墓があり、その軸の周囲にいくつかの空間が左右に付属している。中心軸を進むにつれて、レベルは次第に下がっている。ところどころに自然光を入れるための光井戸が垂直方向に掘られている。ここも蟻の巣のようではあるものの、軸線を意識した空間構成が明快だ。動線部分と墓エリアがはっきり区画され、墓エリアには遺体を安置していたと思われるカプセルホテル的コーナーが高密度で作られている。数百?数千?いったい何人分の遺体が眠っていたのだろう。
オペラハウスは最近改修工事をした様子。ガードに見学の希望を伝えたら快く中を見せてくれた。小振りだが、伝統的なヨーロッパのオペラハウスそのもの。プロセニアムの手前にオーケストラピット、平土間席前部には縦通路がない。平土間周囲は赤く仕上げられているボックス席で囲まれていて華やか。各々のボックスには6席が用意されていた。正面2階にはロイヤルボックス。天井の中央には簡素なシャンデリア、その周囲は空調吹出口と作曲家の名前が縁取っている。
ロレンス・ダレルの小説『アレキサンドリア・カルテット』の重要な舞台になっているセシルホテルは、現在ドイツ資本のSTEIGENBERGERが運営している。ホテルの佇まいは変わらず維持されていると思いたい。アレキサンドリアのコーニッシュ中央部にある公園に面す良い立地。木製回転ドアの小さい正面玄関。フロントの大きな鏡。鋳鉄のフレームに木製の籠、時代を感じさせる剥き出しのエレベーター。小説の舞台になったカフェで遅いランチをとることにした。淡いラベンダーカラーを基調としたさわやかな内装。ここにはイスラムやアラブを感じさせるものがほとんど無い。グリークサラダとキノコのピザ、ステラビール。海側に面した大きな硝子窓脇の席に陣取って、コーニッシュを行き来する人や車、馬車の動きを眺める。
今まで謎だった小型乗合バス(ハイエース的なものが多い)の秘密を解明するため、ちょうど目の前での乗り降りの様子をしばらく観察。乗り降りする場所は何となく決まっているようだが、特にバス停のような看板はない。車道寄りの歩道で何となく乗りたそうな雰囲気を出していると、ハイエースがすぐに近づいて来る。自分でドアを開け、空いている好きな席に座る。助手席もOK。一番後ろの席に座ってしまうと下りる時に面倒だが、後ろに座りたがる人が多い。運賃は動き始めてから運転手に手渡し。一番後ろの人の運賃は、客同士でリレーして運転手に渡す。運転手は大概左手に札束を握りしめ運賃のやり取りに対応している。多分定額だと思う。全く記録を取っている素振りがないからだ。そしてこの小型バス会社への売上上納も定額ではないかと思う。記録を取っていないので、運転手の1日分の稼ぎは会社に申告することも出来ないだろうから、定額上納にして浮いた分は自分の取り分にして良し、というのが一番明快なやり方だからだ。そうすれば、運転手は結構真面目に働くだろう。
それにしてもこの小型乗合バスが全交通量に占める割合は極めて高い。印象としては3割ぐらいは乗合バスのような気がする。謎なのは小型乗合バスのルートについて。行きたい場所に行くバスを、乗客はどうやって見極めているのか?ルートは市全域を網羅しているのか?いくつかの謎は解決され、他の謎はさらに深まる。
2018年3月2日金曜日