トチノキ
トチノキ
『フィールド・ガイドシリーズ23 葉で見わける樹木 増補改訂版』 林 将之著
この本を入手したのは5月末。毎朝の散歩から帰ってすぐに開き、家のまわりにある木の名前を少しづつ覚えてきた。本のタイトルに「葉で見分ける」とあるように、特徴のある花や実に頼らず、葉っぱだけで樹種を特定しているものの、秋の実りを控えたこの季節になって特徴のある実がついてくると、仮定していた木の名前が次々と正しい事が証明されていき面白い。栗は小さなイガが木のまわりに落ちるので一目瞭然。実をたわわにつけた木が柿の木だと分かった時には、ヒロヘリアオイラガの被害に遭って丸裸に剪定されてしまった。
樹高20m近くあるだろうか。その木は家の北側にそびえている。掌状複葉、対生、鋸歯。最近になってピンポン球ぐらいの丸い果を落とし始めたので、トチノキであることが確実になった。丸い果はきれいに3つに割れる厚い果皮に被われていて、それを剥くと黒光りするきれいな実が現れる。栗の実に似ている。栗の場合、色の薄い部分を「座」と呼ぶらしいが、トチの実も半分程色が薄く白っぽい部分があり、それを「へそ」と呼ぶようだ。黒い部分と「へそ」の境界が、実にきれいな曲線である。
生まれて初めて新鮮なトチの実を手にして、あまりのキュートな姿に惚れてしまい家に連れ帰った。それから、きれいな奴を見つけると、連れ帰る、見つけると、連れ帰る、を繰り返していたら、トチの実コレクションが増えてきた。新鮮なものは表面が赤褐色に黒光りしてツルツルしているが、時間がたつにつれ光沢を失い徐々に明るい茶色に変化していく。実の大きさには個体差があるが、境界の曲線は一定のルールに従って描かれている幾何学だ。美しい。
縄文遺跡からトチの実を食用にした痕跡が出土しているようだ。アク抜きをすれば食べられるというが、半月以上の工程で大変手間がかかるらしい。手間をかけても食べていたとすれば、まだ稲作が一般的でなかった時代の貴重な栄養源だったのだろう。
2017年9月7日木曜日