オルガヌム
オルガヌム
19世紀合唱音楽の集い その3
12世紀から19世紀に至る合唱曲の歴史をたどって
700年に渡る西洋音楽の変化を、解説付で演奏するレクチャーコンサート。初っぱなのペロティヌス(12世紀)のオルガヌムが凄かった。淡野太郎、山形明朗、依田 卓。男声3人のア・カペラ。
西洋建築史で12世紀と言えば、シトー派修道院ル・トロネである。LCがラ・トゥーレットを設計する時に何度も通い参考にしたとか、修業時代のANDOが小説『粗い石』を手にして世界を旅したとかのエピソードが多くあり、建築の世界ではそこそこ有名になったこの修道院だが、南フランス・プロヴァンスの極めて辺鄙な場所にあるため日本から簡単に訪ねる訳にもいかない。「極私的・死ぬまでに行きたい建築ランキング」ではいつもトップ10入り。訪問を夢想し、希い続けていると、ある時幸運にもNさんのお陰で行けることになった。「求めよ、さらば与えられん。」
素っ気ない輪郭である。事前に読んでいた『粗い石』(フェルナン・プイヨン/荒木亨訳)が描いていた通り、硬質で加工しにくい現地の石をひたすら積んでいる。モダニズム、むしろミニマリズムとも言える程に余計な装飾要素が無い。小説を鵜呑みにすると、建築様式や教義上の問題以上に、硬い石を不器用に削る施工者には装飾を作る余裕が無かったのだとも思える。中に入るとひんやりすると同時に分厚い床・壁・天井の重量が迫ってくる。
聖堂の東側最奥部突き当たり、至聖所と呼ばれる場所で発声練習をする師と弟子がいた。師がある音を発声する。弟子が師の発する音よりも5度高い音を重ねて出す。その重ねられた二つの音が和音になり、洞窟のような重たく硬質な内部空間で極めて長い残響となる。師と弟子は何度何度もそれを繰り返している。無限の残響。完全5度の愉悦。震える石。忘れられない。
ル・トロネを評した師匠・磯崎新は「傑作と言うにはあまりに稚拙である」と言った後、それだけではなく「見ることのできない何ものかが、建築を超えてたっている。」と付け加えた。「見る」を「聴く」、「建築」を「音楽」と置換すれば、ペロティヌスらが作ったオルガヌムの評となるだろう。
2017年5月7日日曜日