新緑
新緑
今年の染井吉野は例年に比べて長持ちしたように感じる。だが単に、引っ越して桜を目にする機会が増えた所為かも知れない。散れば周囲の地表に薄色の花弁が儚い模様を描き、すぐに大地と一体化するが、地表がアスファルトで固められている場合には掃除対象の燃えるゴミになる。そして葉桜の時期が来る。
家人に聞いた話。一昨年の初夏薄暮時、公園の葉桜並木の下を歩いていると、前を歩いていた人がいきなりキャッキャと叫びながら飛び跳ねはじめた。何の舞踏だか不思議に思ったが、薄暗がりの地表に目を凝らすと地面全体がうごめいている。地表が全面、毛蟲の大群に埋め尽くされていたのだギャーッ!!!
さて、染井吉野が散ると、冬の間広い空を頂いていた落葉樹の公園が、透明感のある鮮やかな黄緑色で覆われる、待ち遠しかった新緑の季節がやって来た。この季節が好きだ。窓を開けるとむせるような生命の匂いが立込め、匂いは海馬を駆け上り、DNAに組み込まれた記憶ひとつぶひとつぶが揺り起こされる。
2017年4月19日水曜日