風の中
風の中
行きたくもないが、運転免許の住所変更をしに仕方なく都庁へ。久し振りに掛井五郎さんの彫刻「風の中」を見る。
「都民広場」と名付けられている半円形の広場には誰もいない。通り抜ける者さえいない閑散とした場所である。都庁のコンペで磯崎案が通っていたらどんな広場が出来ただろうか?広場の閑散とした感じは、多かれ少なかれ似たものになっていたかも知れない。そう感じるのは、物理的に場所だけ設けても、多くの東京人は広場を必要としなくなってしまっていると思われるからだ。歩きスマホのごとく、どいつもこいつも全ての行為を移動しながら器用に行うことに慣れている。広場に集う、などと言うスピード感の無い時代錯誤は似合わない。
「風の中」は、十字架型に手を広げて寒々しい風に対峙する女のブロンズ像である。遠くから眺めると十字架そのもののようにも見える。
近づいて写真を撮っていたら「こんにちは」と声を掛けられた。やっと本来の都民広場的挨拶ができると思い笑顔で振り向いたら制服の警備員。普段人のいない場所で写真を撮っているものだから、重大な犯罪の準備行為等、をしているのだと疑われたのだろう。あの法案が通っていたら逮捕されたかも知れない。そして「風の中」に貼付けられ、権力に見下ろされながら非業の死を遂げる羽目になっただろう。
久し振りの西新宿は、風の中で高層墓碑の林立する死の街だった。それを象徴する十字架。掛井さん、さすがだ。
2017年3月7日火曜日