宮脇愛子
宮脇愛子
2014年8月20日に宮脇愛子さんが亡くなられて3年3ヶ月。銀座の「ギャラリーせいほう」で展覧会が開かれている。亡くなる直前まで制作意欲は衰えず、多くの作品を制作しておられた。こんなことを御本人の前で口走ったらタダでは済まなかっただろうが、愛子さんの作品にはある種のシステムが背後にあり、制作方法さえ分かれば、他の誰でも「似たようなもの」はつくることができる。
キャンバスに網を載せ白い絵具を塗った後網を外す
板硝子の四辺を折割ったものを複数重ね壁面を造る
内外磨いた真鍮の角パイプを積層させ量塊に収める
ステンレスワイヤーの両端を固定し空中に線を描く
奈義町現代美術館で「うつろひ」の制作現場に立会った時のことを思い出す。スタッフ3人が、事前の計画に基づいてベースを配置し、ベース間にステンレスワイヤーを渡して仮止めしていく。皆ヘルメットを冠った作業着姿なので、ほとんど建築の工事現場と変わらない雰囲気だ。だが、一旦愛子さんがワイヤーの角度、ベースの位置を微調整し始めると、工事現場がアート誕生の現場に変貌する。いままで縮こまっていたステンレスワイヤーが、生き物のように動き出す。「うつろひに似たようなもの」が「うつろひ」に変わる奇跡のような瞬間だ。システムが内包する無限のパラメーターの中からひとつひとつを選ぶ決断の連続が彼女の作品を作り出す。
決断はアーティストが事象の本質を抽出することだろう。それを「抽象」と云う。
2017年11月20日月曜日