ときの忘れもの・拾遺
ときの忘れもの・拾遺
綿貫令子、不二夫御夫妻の「ときの忘れもの」はちいさな画廊です。少人数でー幸運なときは一人きりでー比較的サイズの小さい作品と親密に対面できる青山の隠れ家です。行列にまみれて前の人の後頭部ばかりが見える大美術館で開かれる企画展とは対照的、大きな器からこぼれた佳作を拾い集めるような、きめ細かい展示が魅力の一つです。
その綿貫御夫妻が、ちいさな画廊でコンサートをしたいと言い出し、旧知の仲とはいえ、あろうことか私にその企画をせよとの仰せがありました。そこで、畑違いではありますが、日頃感じている次のようなことを手掛かりに、何が出来るか考えてみました。
音楽をとりまく環境は大きな変化にさらされています。電子音の氾濫、ネット経由の音源のみで音楽を聴く習慣、曲の編成に相応しくない巨大なホールでの演奏会、そして日常の雑音・騒音の洪水。今の私達は、音を聴く力、音楽が語るメッセージを受け取る力をどこかに置き忘れたまま、音に無感覚になってきているのではないでしょうか。「ときの忘れもの」でコンサートをするならば、こぼれた佳作を拾い上げるように、忘れかけていた音楽に関わる力を、もう一度取り戻させてくれるかもしれないという期待を込めた企画にしたいと思いました。少人数、至近距離、は画廊のサイズが与えてくれる好条件!ですが、さらに、知られていない楽曲や作曲家を紹介すること、あまり馴染の無い古いスタイルの楽器を使うこと、画廊所蔵作品とのコラボなど、できることはたくさんありそうです。
コンサートは、不定期・年4回ぐらいのペースで継続することを目指しています。幕開けの一年間は、チェリストの富田牧子さんに登場して頂くことになりました。普段音楽や美術に慣れ親しんでいる方々も、その機会が少ない方々も、音楽と美術の側面に当てられた光に浮かぶ新しい輪郭を共に見つけ、共に楽しんでくださいますことを願っています。
(2016年1月 大野 幸)
2016年2月4日木曜日