1111 (1)

 


革命と呼ばれたクーデターやテロを切っ掛けに治安が悪化、観光客が激減したエジプトは経済状況も転げ落ちているのだが、この度IMFが介入することになった。その条件としてエジプトポンドの切り下げと変動相場制への移行が突付けられる。この通貨切り下げが前触れ無く11月3日施行された。物価はいきなり高騰。これに抗議するデモが11月11日金曜日に企画された。デモするなら休日の金曜日と律儀に決まっている。そこがストとの違いかな。

この情報が一部のエジプト関係者の間で駆け巡り、日本の考古学者にも10日にはエジプトを離れ帰国するよう指令が出た。どうしてこういう時に限って出張するハメになるのかなぁ。11日は出歩かないでホテルでじっと潜んでいることにしようか、その為に娯楽小説でも仕込んでいこうか、などと一応心配しながら準備し、機上の人になる。

乗換のアブダビ空港待合室でふと隣の席を見ると『地球の歩き方・エジプト』を眺める女子二人組。


「観光ですか?(この時期に観光かよ)」

と訊くと、

「はぁい、そーなんですぅ〜」

との頼もしい返答。

「11/11のこと知ってますか?(大規模なデモが予定されてて、大使館、JICA、考古学者たちも緊迫してる状況ご存知?)」

「え?何?11日にはピラミッドとタハリール広場の博物館見学になってますぅ〜」

「。。。(その広場、デモの集合場所なんですけど。)」


たくましい。カイロ空港では彼女たちをエジプト人ガイドが迎えに来ていて、


「なんか、大丈夫みたいですぅ〜」


さて、11日。これまで定宿にしていた「F」に飽きたし、やる気の無いホテルマンたちの態度に嫌気がさしたので、ホテルを同じエリアの「L」に変え、初めての朝。「L」は緑に囲まれた特に静かな場所にあり、部屋数も20ばかりの小さな規模。窓の外は小鳥の鳴声。今までの喧噪にまみれた「F」と比べると同じエリアにある同価格帯のホテルとは思えない。食堂では簡素だが美味しい朝食を供していて、絶妙の音量に調整されたドイツ音楽が静かに流れている。客はほとんどヨーロッパからの長期滞在者。食事の時に雑音を立てる人がいない。両親がドイツとエジプト、ダブルである女主人がこのホテル全てを取り仕切っているようだ。なるほど。


11日は、この部屋で持参した小説を読みながら、のんびり過ごせると思っていた。甘かった。

 

2016年11月11日金曜日

 
 

▶

◀