猫と犬

 


イスタンブールは坂と猫の街だ。ムハンマドが猫を可愛がった(服の裾の上で寝ている猫を起こさないように、出かける時に服の裾をハサミで切った)という言い伝えがあるからなのか、一般にイスラムの国々では猫が大切にされ、活き活きとして、人を恐れない。逆に犬は邪険にされ、最初からふて腐れてやる気の無いオーラに包まれている場合が目に付く。


ピンコロ石で舗装されたイスタンブールの坂道を、猫をかまいながらフラフラ歩いていると、やたらと足が疲れる。花崗岩や玄武岩で出来たピンコロ舗石は表面がデコボコしていて見栄えはいいのだが、足が地面に着くときの角度が毎回微妙に違って、無意識にその角度を補正する筋肉の動きが、普段は感じない程の疲労を生むのだろう。それにしても良く歩いた。スマホが勝手に記録していた万歩計をあとから見ると、2日間で40kmぐらいの距離に相当する歩数をカウントしている。足が痛くなるわけだ。


歩いているといろんな言葉で話しかけられる。これは25年前と変わらない。コンニチハ!はもちろん、你好!や 안녕하세요!も飛び交っている。変わったのは、日本人観光客がほとんどいないことだ。


こんなことがあった。笑顔で近づき並んで歩きながら「最近日本人が少ないんです」と流暢な日本語で話しかけてくるトルコ青年の話は、自分が日本の旅行代理店のエージェントになっていること、好きなトルコのサッカーチムのこと、もうすぐ行くことになっている東京のこと、見るべき観光ポイントのことなど立て板に水、適当に相槌をうっていたらそのうちレストランやみやげ物屋の話になった。そろそろ「こいつ怪しいな、、」と思い始めた頃に「仕事があるので、じゃ」と言って、あっさり立ち去ってしまった。ありゃりゃ、客引きじゃなかったのか。とはいうものの他に知っている店も無し、云われるままにそのみやげ物屋とレストランに吸い寄せられるように入ってしまった。売上の半分ぐらいはその青年に行くのだろうか。まんまと引っかかったのだろうな。この手口は「イスタンブール旧市街では客引きに注意せよ」という情報が行き渡っている日本から来た数少ない観光客相手を想定して、研究に研究を重ね、磨き上げられ洗練された高度な技術に違いない、それなら引っかかってもしょうがないな、と高額会計を見て思うのであった。

 

2015年6月30日火曜日

 
 

▶

◀