カイロの雨
カイロの雨
カイロで雨。植木鉢やエアコンの室外機が降ってくるだけじゃなく、カイロでは雨も降るんだな。
スルタンハッサンモスク訪問時に弱い雨が降り始めた。この建築の中央部は、30m立方程の吹抜けの内庭になっていて、カーペットが敷き詰められている。あ〜カーペット濡れると、モスクゆえ靴を脱いで入場しているボクの靴下も濡れてしまうのだ。靴下も脱いで裸足になれば良かったかな。この衆生は崇高な建築の中でさえ、雨が降っただけで自分の靴下が気になる小さい存在なのだ。
このモスクのミフラブの裏側には、スルタンハッサン廟がある。普段は入場できないようだが、管理人風情の男が鍵を開けて人を招いているのに気づき、あわてて廟に駆け込むと、コーランの朗唱が始まっていた。おお、暗闇で唱っているのはさっきの管理人だ。垂直方向に高い石造の空間は、正方形平面にドームを頂いている。極めて長い残響に倍音が渦巻き、激しく感動させられる。建築は聴覚も含んだ感覚を総動員して対面するものだという。頭じゃ分かっちゃいることだけれども、理知的な頭の部分は、身体感覚のほんの一部しか司っていないことを思い知る。このリアルな体験は、ル・トロネ修道院で発声練習をしていた場に遭遇したことを思い出させてくれた。靴下のことなど忘れてしまう。
オールドカイロと呼ばれているエリアに入ると雨もあがり、ホコリっぽかった舗石がしっとりと濡れて輝き、空気も澄んで美しいことこの上ない。この細い路地のネットワークには車も入りにくく、カイロ全域に見られる吠え狂う暴走車のカオスが無いだけでも街は綺麗に見える。時間の動きもゆったりしている。ああ、カイロから全ての車が無くなればいいのに、などと夢のようなことを思いながら目を上げると、彼方に雨上がりの虹がかかっていた。ノアの見た虹と同じ希望の虹なのか。
2015年12月18日金曜日