冬の旅

 


F.シューベルト <冬の旅> 作品89 全24曲 

バリトン 淡野太郎 

オルガン 椎名雄一郎 

ポストホルン 上倉武

武蔵野市民文化会館 Arte 小ホール


想像を絶するというのは、こういうことを言うのだろう。あらかじめ心の準備はしていたのだが、かなり驚いた。驚いたことを列記してみる。


①原曲はピアノ伴奏だがパイプオルガンで伴奏。②衣装は杖を手にしたバックパッカーの出立ち、つまり普段着。しかも途中でそれを脱ぎ捨てる。杖を投げ捨て、荷物を蹴り飛ばす。③ステージに座り込んだり横になったりしながら歌唱 ジャンプ有り、でんぐり返し有りの格闘技系演技。④ポストホルンのバンダ演奏付。⑤演奏者自身による新対訳とTVモニターによる字幕掲示。⑥楽譜にないセリフ付⑦客席から登場、客席へ退場。⑧アンコールではパイプオルガン伴奏でリコーダー演奏(クープラン『恋するうぐいす』)⑨他、諸々


オペラの壮大な伽藍に匹敵する建築を、一人の声と一台のオルガンだけで築いた。声とオルガンの組合せ、他の曲でも是非聴いてみたい。


飛んだり跳ねたりだと、お行儀の良いクラシック業界は苦笑するかもしれない。だが決して奇を衒っているわけではない。シュッツやバッハなどのバロックに精通している音楽家が、新しい地平を切り開こうとしている。温故知新。真っ向勝負で、曲の持つ潜在的な可能性を引き出そうとした挙句に到達した舞台と見た。


淡野太郎さんは、日頃参加させてもらっているユビキタスバッハの指導者でもある。優れた音楽家に率いられてバッハのカンタータを演奏できる恵まれた環境に感謝したい。

 

2015年1月9日金曜日

 
 

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