火葬
火葬
3年前に死んだ父は生前の意志により医大に献体、このたびその遺体が火葬されることになり、医大のある街の火葬場に行ってきた。
解剖実習で父の遺体に触れた教授や4人の学生もその場に集まり、我々夫婦としばらく火葬場で共に過ごす機会を得た。同じように献体した方々のご遺族と学生たちが、待合室に4〜5グループ見受けられる。
火葬を待つ1時間程の間、4人の学生とお話。4人は遺体の父について、我々は生きていた父について話す。実習は2ヶ月に渡って、全身隈無く行われたようだ。学生の話によって若い頃の重篤な結核の症状が再確認できた。肺は半分しか機能していなかったのではないかという。筋肉は全身素晴らしく発達していたらしい。酷使していた筈の目は綺麗なままだった。
父の結核の原因を学生に伝える。父は少年時代、風邪をひいて高熱を出していたのに、学徒動員で雨中の作業を休ませてもらえず、風邪の悪化で体力が落ち結核に感染した。結核はその後の父の人生に大きく影を落とす。そのこともあって父は軍国主義的、全体主義的なあらゆるものを忌み嫌っていた。極めて個人的でフィジカルなものが根底にある嫌悪である。
死んでもなお人に仕えた父は、リン酸カルシウムの破片になり、小さな骨壺に入った。納骨は来春の予定。
2014年12月5日金曜日