武久源造@近江楽堂
武久源造@近江楽堂
武久源造 バッハシリーズ@近江楽堂 vol.4
~冬の中の暖かさ~
歳の差40年の二重唱。淡野弓子と神山直子がバッハとヘンデルを歌う。伴奏は武久源造のジルバーマンピアノ。それぞれの歌は恋をテーマにしているが、恋の向こう側には死を見据えている。生きている自分、過去に死んだ作曲家/楽器製作者の生き続ける曲/楽器、そして誰にでも不可避に訪れる未来の死、それらが交錯する濃厚な時空間。そこに満ちているのは「喜び」だった。アドベントに相応しい。
先日浜松の楽器博物館を訪ねて、ジルバーマンピアノの機構が漸く分かった直後だったので、一層楽しめた。
外観からは分からないけれど、鍵盤と弦の間のアクションやダンパーと呼ばれる機構を演奏の要請に従って精緻に設計・改良し続けることによって、このピアノという楽器は発展してきた。イタリアのクリストフォリ(1655-1731)の発明したピアノを、ドイツのジルバーマン(1683-1753)が鍵盤演奏の名手バッハ(1685-1750)に意見を訊きながら改良を加える。バッハは1747年にそのピアノで、後に『音楽の捧げもの』としてまとめられる曲をフリードリヒ大王の前で即興演奏する。
260年後、日本の鍵盤楽器製作者・深町研太がその時のジルバーマンピアノをモデルにして造った楽器(2007年製作)に、バッハが乗り移った武久源造が様々手を加えて、自分好みの楽器にカスタマイズし続けている。演奏に道具が追いつくための作業を演奏者・武久源造自身がやっている、ということも面白い。
源造さんにはバッハだけではなくジルバーマンも憑依している、とでも云えようか。
2014年12月10日水曜日