皆既月食

 


赤坂はビルの陰に覆われた谷底にある街なので、地上から広い夜空の見えるところといえばミッドタウンの公園ぐらいしか無い。行ってみた。


ミッドタウンで飲み物若干を調達し、無料開放のテーブル席に陣取り月食観察を開始する。一方、道を隔てた芝生広場では何かのイベントでもあるのだろうか、長蛇の行列ができていて、みんな空ではなくスマホを食い入るように眺めている。月も目が離せないが、この怪しい人の列からも目が離せなくなる。


月が皆既状態になってしばらくすると、行列が動き出した。どうやらヨガをやるために集まってきているようだ。ひっきりなしにタクシーで駆けつけるおばばたちが次から次へと押し寄せ、前傾小走りで会場に駆け込む。「月見ヨガ」という無料イベントらしい。先着500名、というからかなりの人数だ。皆既月食よりもこちらの引力が強烈である。99%女性の群れが、インストラクターの指示であっち向いたりこっちを見たり、あんな格好やこんなポーズを決めてる。ベーリング海のトドの大群、ムーミン谷のニョロニョロに匹敵する不気味さである。皆既状態になった赤銅色の月と不気味さ合算で計測不能、仕入れた酒があっという間に無くなった。


蛤御門の変で取り壊しになった長州藩麻布下屋敷。その跡地にできた桧町駐屯地が舞台となる2・26事件。そして『夜空ノムコウ』を歌っていたクサナギ君が全裸で星空観察していたいたところ通報され現行犯逮捕されたのはこの場所だった。地霊がとり憑いてるな。


たとひわれ死のかげの谷をあゆむともわざわひをおそれじ、なんぢ我とともにいませばなり

(詩23)

 

2014年10月9日木曜日

 
 

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