殿敷侃
殿敷侃
殿敷侃(とのしき・ただし)遺作展@ときの忘れもの
3歳の時に広島で被爆し、50歳で死んだ殿敷侃の、初期版画作品を中心とした展示。この美術家のことは知らなかったが、広島出身一族の末裔としては、8月に原爆関連の展覧会があれば行かねばなるまい。
胸が締めつけられる。貝や櫛、被爆したレンガなど無機質な静物を描いているが、それら全てが、かつて生命と関係していたものたちだ。今や命の抜け殻となった静物を前に、一点一点息を吹き込むように銅板にニードルを刺してゆく。祈りの込められた気の遠くなるような時間が作品に積もっている。
綿貫さんのお師匠さんにあたる美術評論家・久保貞次郎に才能を見いだされたという。久保は、銀座の画廊で偶然出会い、その時点描の作品を見せてくれた殿敷に、版画のプレス機を一方的に送りつけて銅版画を学ばせ、作品を世に送り出した。今回の展示はその時の作品が中心になっている。
殿敷は1987年「ドクメンタ7」でヨゼフ・ボイスに出会い、強い影響を受けて社会活動的な作品に向かう。それ以降版画から遠ざかってしまった。
一旦スケールの大きな作品に関わってしまうと、なかなか小さなサイズに戻るのは困難なのかもしれない。殿敷は生前、小さな版画に戻ることは無かった。彼が、もし、今再び版画を創るとすれば、どんな作品が生まれるだろう?
2013年8月23日金曜日