魯迅博物館
魯迅博物館
無数のツバメが高速で舞っている。
位牌が並んでいるだけで何と云うことも無い「歴代帝王廟」を見た後、チベット仏教の本拠地だった「妙応寺」に行ってみたら改修工事中で入場不可。足場の掛かった白いパゴダを見上げて方位の目印にしながら、迷路のような胡同の中を彷徨い「魯迅博物館」を目指す。
ボクが魯迅に触れたのは大学に入学してからだった。魯迅研究の第一人者であった伊藤虎丸先生を中心とするクリスチャンのサークルが、小さな学生寮「信朋塾」を作り支えていることを父が知っていて、大学入学と東京での一人暮らしが決まってすぐ伊藤先生に面会、入寮許可されたことによる。サークルというのは、旧約聖書学の碩学・浅野順一に教えを請うたクリスチャンの方々のこと。「信朋塾」で週に一度行われていた夜の読書会に参加することが、入寮の条件だった。
5年以上過ごした「信朋塾」における思い出の詳細にはここで触れないが、読書会、あるいは決まって開かれるその後の宴会で、伊藤先生の御専門である魯迅もごく自然に話題になっていた。そんな訳で、魯迅への一方的な親しみと熟成された懐かしさを胸に抱きながら幾年月、ようやく魯迅博物館に辿り着いた。
魯迅が一時期北京に住んでいた時の旧居跡が博物館になっている。直筆の手紙や手稿(どれも実に小さな文字を丁寧な筆致で書いている)、仙台医学専門学校にいた時の成績表(ほぼ全丙)、デスマスクに至るまで、密度の濃い展示内容だ。毀誉褒貶激しい権力闘争の時代に生きながら、今も変わらず人民に敬愛されているのは魔法のようである。
次は魯迅の故郷・紹興を訪ねて見たい。
(写真は『阿Q正伝』自筆原稿)
2013年6月1日土曜日