音楽家の肖像

 


ミラノ、アンブロジアーナ図書館・絵画館が所蔵するダヴィンチの「音楽家の肖像」と「アトランティコ手稿」が来るというので、金曜夜8時の閉館前を狙って上野に行ってみた。空いてて良かった。


学生時代、全てが新鮮で新しく見えた「現代美術」なるものにかぶれかけていたボクに、「そんなゴミはどうでもいいから、ダ・ヴィンチやミケランジェロ、ラファエロも良いな、ルネサンスの天才と呼ばれる奴らを見ろ。凄い。」と掛井五郎。彼がその辺の頭でっかち美術評論好きオヤジだったら黙殺するところだったが、誰あろう彫刻家・掛井五郎である。以来その天才たちのものはどこに行っても時間を作ってできるだけ見るようにしてきたが、今年になって3人が一気に東京にやって来る。ラファエロに続き、ダ・ヴィンチは2人目。


『アトランティコ手稿』とっても小さく丁寧な鏡像文字が高密度で書き込まれている様は、先日見た魯迅の原稿にも通じる。16世紀初頭のイタリアでは、魯迅時代とは比較にならぬ程1枚の紙が貴重だった筈だ。神々を紙々を無駄に捨てまくっている現代人から見れば、大事に紙を扱っている気分が迫って来る。でも、書きすぎていない。いくら大事な紙々だからといって、書きすぎて真っ黒にはせず、紙面は程よい緊張感を持って「完成」されている。メモだから当たり前のことだが、試し書きなど無しでいきなり書き始めたであろう臨場感が紙面から生々しく伝わってきて、よくぞ手描き絶滅寸前の今日まで残しておいてくださいました、と有難い気持ちに満たされ☆5つ。


『音楽家の肖像』ダ・ヴィンチ唯一の、油による男性肖像画だという。ううむ、これホントにダ・ヴィンチなのか?などと疑念を持っちゃったほどに中途半端。彼の絵には未完のものが多いとはいうものの、未完なら未完でもう少し分かり易い未完にしておいて欲しかった。絵全体が弛緩しているように見える、などと書くと罰が当たるだろうから書かない。あとで調べると、作者やモデルについてネット上ではいろんな説が乱れ飛んでいる。顔はダ・ヴィンチ、上半身はアシスタントのボットラフィオ、などなど。期待の盛り上がりに反し肩すかしをくらった感じで畏れつつ☆2つ。


何れにしても、御陰様でまた良い経験ができました。掛井さん、ありがとうございます。次の天才は9月に来るミケランジェロ。

 

2013年6月15日土曜日

 
 

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