菅原一剛写真展
菅原一剛写真展
@ときの忘れもの
きっちり同じアングルで撮影された10枚程の銀塩モノクロームプリントが、それぞれいぶし銀のような仕上げの額に納まっている。ベニス、サンマルコの回廊にある四角い付柱の柱脚部分に正面から向かい合っている写真群。角柱は画面の上辺で不意に切断されている。その形から、最初は墓石の写真かと思った。表面の汚れ方の相違が、各々別の柱である事を分からせてくれる。こういう写真をコレクションする時は、少なくとも3枚以上同時に入手するのがいいんだろう。
目を使い始めて50年を越え、ますます遠くのものがよく見えるようになってきた。老眼とも言う。銀塩とインクジェットの違いもよくわからない。テレビはHDだろうが4Kだろうが、すべてきれいに見えてしまう。こんなときは、デジタルに対する銀塩の優位性とは何なのか?などと思う。
絶滅危惧種を集めて動物園を作っているカタールのシェイク・サウドが、カメラと写真のコレクターでもある事を思い出す。もちろんデジタル以前のもの。消えゆく儚いものの希少価値が、コレクター魂を高揚させるのかもしれない。
ギャラリーの壁に架かる写真が墓石に見えたのはあながち見間違いでもなく、写真家が消えゆく銀塩写真そのものの墓場を用意していたのではないかと思い至る。ベニスに死す、である。
2013年10月22日火曜日