宴会は22時まで

 


ハクモクレンのきれいな紡錘形をした白い花がそこかしこに見える。〆切を過ぎ一段落したら、急に暖かくなって、ようやく春が来た。


井の頭公園は平日の午前中だというのに凄い人出だ。桜のつぼみもはじけそうである。そろそろ気の早い人たちは花の無い公園でブルーシートを敷き始めるのだろう。それに鋭く反応して、公園の管理事務所は毎年この時期に横断幕を掲げることになる。


横断幕の文字は、曖昧な日本語の特性を最大限に生かし、何とでも受け取れるように書かれている。


「宴会は22時まで」


「宴もたけなわなのはやまやまですが、ハイ、そこのあなたたち、夜の10時ですよ、宴会おしまいにしてください」って意味なのかなあ、と日本語の達人である我々は、瞬間的な深読みの挙句良心的に解釈するのであるけど、22時までに「おしまいにしろ」とはどこにも書いていないのである。人によっては「ハイ。仕事が忙しい残業だらけの年度末ですけど、頑張って22時までには宴会始めますっ」って人もいるだろうし、「昼から宴会始めちゃって、もう結構グタグタなんです。でも中途半端な時間で終わりにしないで、ちゃんときっちり22時まで宴会し続けますっ」と読む人だっているかもしれない。


しかも夜10時の暗闇の中では、この横断幕をしっかり読むことのできる頭脳明晰な酩酊者は少ないのではないか。大半が正しい酔っぱらいと化し、判断力、理性などをどこかに忘れてきている筈である。宴会してなくても横断幕の真下、自転車置場の目印になっている看板を見よ「駐輪禁止」と書いてある。同じことだ。横断幕を掲げさえすれば、近隣住民からの苦情が来た時、容易に言訳が出来ると考えた小役人の姑息な保身のアイデアであることは明白である。(たしか去年までは「宴会は10時まで」と書いてあった気がする。それがなぜ、幕を新調して22時になったのか。経緯を想像するとそれだけでまた腹が立つ。)


そんなことよりも、字体も色もへったくれも無い薄汚い横断幕で、花を愛でる視線を妨害するのはやめてもらいたいのだが。

 

2012年3月29日木曜日

 
 

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