雪

 


ヘロドトスは雪を見たことが無かったのかもしれない。


「歴史」のスキタイ人に関する記述には「スキュティアの国の境外に住む民族より以北の地方は、降り注ぐ羽毛のために先を見通すことも進むことも出来ない。地上も空も羽毛に満ち、これが視界を妨げるからだという。」(岩波文庫)とある。


そんなことを考えていたら、記憶がスライドして大学院時代、エジプトはルクソールでクリスマスを迎えた時のことを思い出した。


エジプトは今やイスラムの国ではあるものの、大きなホテルでは観光客向けにクリスマスツリーを飾っている。そうか、クリスマスなのだなあと飾られていたツリーをよく見ると、無数のオーナメントと混じり、丸めてキリタンポみたいになった綿の塊が、ツリーの枝の先からオーナメントと同様いくつもぶら下がっている。最初は何かと思ったが、これは雪のつもりなのだと気づいた。年間降雨降雪量0のルクソールとはいえ、いくらなんでも面白すぎないか。


だが、東京で少しばかりの雪が降ると歩き方も分からず転倒事故続出の我々が、エラそうにエジプトのクリスマスツリーを笑うわけにはいかない。砂漠のことは砂漠の民にしかわからないし、雪のことも雪国の人にしか分からないのだろう。

 

2012年3月1日木曜日

 
 

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