「アリア」上映
「アリア」上映
ギャラリー「ときの忘れもの」では木曜日の「井桁裕子作品展—加速する私たち—」オープニングに続き、土曜日は坪川拓史監督の映画「アリア」(2007)上映会。同時代の作家たちが辿っている創造の軌跡を、覗き込んできた。
映画「アリア」では井桁さんの「人形」が、幻想と実在の境界に立つ重要な役回りを与えられている。その後「加速して」人形と言う領域から高速ではみ出そうとしている表現者・井桁裕子が、ギリギリの際どい均衡を保ったまま。
映画は、水が通奏低音的に映画を支配している印象だ。少し「ソラリス」を思わせるところもあるが、タルコフスキーより遥かに面白い。また、水が持つ「水平」という特性が、画面の厳しい構成をより強化している。どのシーンを切り取ってスチールにしても写真として成立するであろう、水平垂直の際立った、完成度の高いカメラワークがすばらしい。
「アリア」は日本では東京国際映画祭で特別上映されただけで、一般映画館での上映は未だである。いつの時代にも共通するのだろうが、映画でも、ファインアートでも、建築でも、音楽でも、優れた作品は同時代への批評となる。そして批評者は常に少数派に属するだろう。
坪川監督は、以前も話してくれたように、制作の前にはバッハのマタイを聴くらしい。「マタイ」は失われたものに対する追悼でもあり、これから生まれるものに対する希望でもある。
2012年11月26日月曜日