ボルヘス

 


Nと呼ばれるその物理学者は、時々何の前触れも脈絡も無くメールしてくる。今回の通信は図書館建築の愉悦について。いくつかの「有名図書館」の画像をやりとりしてるうちに、ボルヘスの「バベルの図書館」(1941)が読みたくなって来た。


盲目の図書館長・ボルヘスの暗い頭蓋内部をそのまま建築/物語化したような短編である。「無限かつ周期的」な全ての本(冊数は極めて多いが、有限。一定サイズの書籍に含まれる文字の組み合わせの総数)を蔵する図書館。建築は、充塡及び無限拡張可能な六角形を基本としている。


向かい合う鏡の間に立った時のような目眩を感じながら再読。ボルヘスが短編だけを書いてくれたおかげで、ボクたちはいつでも彼の全作品の中から時に応じた一編を選び読むことができる。しかも、ほんの数ページの短編の中に、全宇宙が豊かに描き込まれている。有難い。


クラウドコンピューティングは、アレキサンドリアやバベルの夢を見る。グーグルやアップルはボルヘスの伝える不可視の六角形基本構造を必死で構築しているだろう。だが、そこに蓄えられた「本」は、ほとんど全てが意味の無い単なる文字の羅列であることをボルヘスは見抜いていた。クラウド/図書館の宿命として、無意味なものも分け隔てせず全てを所蔵するしかないのだ。


本を選び読むのは我々自身である。そして先人に学ばない限り、読むべき本に辿り着く確率はゼロに近い。

 

2011年7月8日金曜日

 
 

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