北京にて 6

 


雨の頤和園は霧に煙って幽玄感に満ちている。


しかしなんだろう、このキッチュな気配。あぁ、ルートヴィヒ2世のノイシュヴァンシュタイン城(1886年)と同じ匂いがするんだ。西太后が、廃墟になっていた頤和園を再建したのが1888年。バイエルンと清はどちらも普請道楽を極めた権力者によって、20世紀に入り同時期に国が滅びることになった。その二つの建物が、現在は観光資源として国の収入に貢献している。100年単位で借金返済ってことかな。ノイシュヴァンシュタイン城を知らないミーちゃんやハーちゃんが大挙して遊びにいくのが、ディズニーランドのシンデレラ城。そんなところにお金使わないで、見るなら「本物のキッチュ」見なさいね。


地下鉄で宿に帰る。だいたい地下鉄のチケット自販機は、万国共通調子が悪いのである。自販機にへろへろのお札がうまく入らなくて困っていたら、美人女子大生推定年齢19歳の2人組に助けてもらった。独特のコツがあるらしい。謝謝。自販機の調子が悪いと、言語を超えた国際交流に役立つこともある。悪いことばかりではないな。


夜は丸テーブルで江南料理。店に入った時から、なんだかただならぬ凄い匂いがレストラン中に充満している。臭豆腐だ。ニオイの元は豆腐につけるソース。これを食べないと周囲の臭いにやられっぱなしになるので、慌ててこちらも注文。美味い。紹興酒との相性がすばらしい。チーズでも、くさやでも、ドリアンでも、鮒鮨でも、臭いものは食べてみると大概美味いんだな。


魯迅もこれを食べていたと教えられる。


中国での酒の飲み方には学ぶべきことが多い。いつも勝手に、下手すると手酌で好きなだけガブガブやってる我身を省みる良い機会だった。中国で晩餐に飲むお酒は、互いに人のペースを考えながら様子を見、ここぞというタイミングで杯を掲げ互いにチビッとやる。普通は、あくまでもチビッ。訓練された方々はさすがそのタイミングを外さないのだ。下手に「乾杯」などと言ってしまうと、言った通りに飲み干さないと収拾がつかなくなる。日本企業の営業マンが中国に於ける会食で破滅的な飲み方をして白い目で見られる噂はよく聞いていたが、なるほどそういうことだったのか。食事はあくまでも互いをよく観察理解し、思い遣る場なのだろう。こういうところにこそ、歴史の厚みが表出するのだなあ。ホントは中国に限らず、どこでも同じことなのだろう。気をつけなきゃ。


ただ、地下鉄乗降の混乱振りを見てると、同じ人たちとは思えないのだけど。


つづく

 

2010年7月5日月曜日

 
 

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