昏迷の時代に 3

 


時空を絶対的なものとするニュートン力学の世界から、アインシュタインの相対性理論の世界への移行は、全ての事象を単一の理論で説明し尽くそうという被造物の野望に大きな可能性と希望を与えた。


だが遥か以前、人類はピタゴラスの時代既に「万物の根源は数である」との信仰にも似た包括的単一理論に到達している。


ピタゴラス先生から2500年後の我々だが、建築も形体や時代の混乱を超えた、数そのものを背景とする強靭な創造思考を召還する時期が来ているのではないか。極めて抽象的な概念を具体的な空間に落とし込む絶望的な作業。引用や暗喩などを駆使した形体操作に留まらず、神の目にどう映り、神の耳にどう響くかを、我々知覚不能者にも予感させる空間であり得るかどうかが鍵であろう。


音の領域では大バッハがいる。彼は数象徴学を創作の根幹にかかわるモチーフとして音世界を大伽藍として組上げ、計測不能な秘密の深淵をわれわれにも入口から覗かせてくれている。


こういう魔術的境地には、たとえ辿り着いたとしてもその事実を口外できないのが常だ。ということは、まだ到底その着地点は見えていない。

 

2010年7月24日土曜日

 
 

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