昏迷の時代に
昏迷の時代に
ルドゥーやブーレーら、フランス革命の時代に彼の国の建築家たちが純粋幾何形態に固執したことに歴史家は触れ、「時代が混乱すると、純粋幾何学が登場する」と言っている。混乱・変革の時代に、建築家も足並みを揃えて社会運動を担っているという自負を、純粋幾何学の力強さに仮託してダイレクトに表現していたというのだろう。純粋故になかなか実現しなかったけれど。
革命無き国も、今は昏迷を極めている。
政治や社会の動向が建築に独自の形を与えて来たのと同時に、科学の動向、つまり時空に対する理論の変遷が、時代や建築に及ぼした影響も無視できない。
ニュートン記念堂とアインシュタイン塔とを見比べてみる。(写真 どちらも wikipedia)
ニュートン(1642−1727)の名を冠する計画を発表したフランス革命期の建築家ブーレー(1728-1799)は球体という「最も純粋な幾何学」でできたニュートン力学の世界を封じ込める未完の建築を夢見た。アインシュタイン(1879−1955)の理論を実験により検証するためにメンデルゾーン(1887-1953)が設計した「アインシュタイン塔」は、うねるコンクリートの3次局面による彫刻的な表現となっている。時空についての概念変化が、建築にも形体の違いとなって現れるのは確かに面白い。
建築家二人とも大まじめでやっているだろうにもかかわらず、どこか愛嬌があるのは、その純なコンセプトが無邪気な素直さで形体操作に直結しているからだろう。でも、それだけなのか。
つづく
2010年7月22日木曜日