デロス
デロス
昨日の続き。
隣のテーブルで朝からいい感じになっていたキャプテン・アドニス(実名)は
「おにいちゃん、レロスに行きたいんらろぉ。まかしとけっ!」
と呂律が回らないけど言い切った。
「こんな海で船を出せるのはオレだけだもんね」
とも言った。周りの男たちは皆ニヤニヤしている。こちらは酔ったおっさんを前にもう逃げ腰。
「え?この天気で船出すの?」
「30分後にもう一度ここに来な。港で待ってるよーん。」
「マジですか?」
このやりとりを近くで聞いていたフランス人考古学専攻美人女子大生推定22歳アネット(仮名)が「私も連れてって!」
道連れまで用意されていた。逃げられん。
宿に帰り急いで荷物をまとめて港に戻ってみると、キャプテン・アドニス(実名)は船乗帽をかぶり船長らしくなっている。彼が指差す先には木の葉のような小さいボート。
「マッ、マジっすか?」
それからの数十分のことはあまり思い出したくない・・・。空の裏側が見え、次の瞬間地獄の底が見える。船が上下動する度に、胃袋が振り回されどこかに飛んでいきそうになる。ピッチングというのはこういうことなのか。アネット(仮名)は船尾で下を向き船縁にしがみついて小舟と一体化している。木の葉は垂直運動を無限に繰り返し、デロス島が見えた時には我々は既にボロ雑巾。陸地の有難さをエーゲ海で知ることになろうとは。
現在のデロス島は考古学調査のため島の博物館に滞在している研究者はいるが、定住する者のいない、完璧な廃墟の島だ。
状態の良い遺跡を見てまわるコースが決められていて、見学者は(ホントは大きな)船でミコノス島から日帰りのツアーを組む。荒海のその日、デロスに上陸した観光客は我々キャプテン・アドニス組だけだった。
キャプテン・アドニス(実名)は
「じゃ、ここで3時ね。」
と言い残し、高波の中ミコノスに戻ってしまう。また港の酒場でレッツィーナを飲むのだろう。さて、ヘレニズム世界の中心で愛を叫ぶとするか。
つづく、かも。
2010年4月2日金曜日