カパドキア
カパドキア
カパドキアという不思議な響きの地名を知ったのはいつのことだったろう。新約聖書の中にも出てくるので、無意識のうちに耳から入った音の記憶があったのかもしれない。学生時代から、旅の目的地候補として常に上位にあった。特に魅惑的だったのは、いろんな本で何度も見た奇岩風景。名前も不思議なら景色も不思議だ。
1989年、首都アンカラからバスで出かける地元のツアーに参加してみた。
まずギョレメ。
この世のものとは思えない。見渡す限り林立する奇岩だらけだ。岩の腹には無数の洞窟が人の手で穿たれている。2000年前、パウロはどんな景色を見たのだろう。洞窟は後世に少しでも掘り拡げると原状は跡形も無くなってしまうので、はっきりした歴史的な推移は分からない。現在中世のものがよく残っているのは、近世になって洞窟が打捨てられたか、原状の規模以上掘り拡げなかったかのどちらかだ。材料を一切使わず、道具と執念だけでつくる建築。
そしてカイマクル。
初期キリスト教徒は迫害から逃れるため蟻の巣状の地下都市をいくつもつくった。特にイスラムの勢力が押し寄せた7世紀以降には、半年から1年も地下で嵐が通り過ぎるのを余儀なくされたこともあったという。蟻の巣に入ってみた。分かっているだけで8層にも及ぶ地下のラビリンス。礼拝堂、寝室、倉庫をはじめ、ワイン醸造所、トイレ、井戸、なんと馬小屋まである。ここは防御システムが完備された要塞だった。
「地下での生活が長引くと発狂する人が続出する。ワインは聖餐のためだけではなく、朝から飲んで酔っぱらい、発狂を予防するための薬として用いられていた。」ガイドが話してくれた内容に慄然とする。
2010年3月10日水曜日