ARK NOVA

 


掌に載るサイズの石に穿った穴の内部を、深い色の顔料で塗り、奥行き不明な無限の深淵を創る。


前世紀末、カタールの仕事を担当する前から、磯崎さんがアニシュ・カプーアの小さい作品に注目していたのは知っていた。その仕事でカプーア本人との打合せに同席させてもらった時の印象は「なんと魅力的な人」。その後 MARSYAS や LEVIATHAN を発表し僕らの度肝を抜いてくれた彼が、それら「巨大内蔵系」作品の系譜につながる建築的彫刻=ARK NOVAを、磯崎さんと協働した。しかも宮城県は松島で。行くしか無い。


ルツェルン音楽祭がサポートする音楽祭 in 松島、公開間際の可動式コンサートホールARK NOVAを見学させてもらった。


外観は生レバー色かな。中に入ってみると血の赤い色。色ムラが生命体を感じさせる効果を醸し出している。周囲の木々がレバーの表面に影を落とし、その影が風で揺れ、実に生々しい。初期のスケッチを目にしたときは、ホントに出来るんかいな?音響は大丈夫なのか?などと余計な心配もしたが、いきなり目の前に巨大レバーが登場すると、予想以上に激しく感動してしまった。感動よりは動揺に近いかもしれない。


アポロンに音楽で挑戦した挙句敗北し生皮を剥がされた MARSYAS 、旧約に登場する凶暴な怪物 LEVIATHAN、そして大震災と津波の後に松島の山上に降り立った箱舟ARK NOVA。カプーアの巨大な作品には常に「怒る神」に対する畏れが潜んでいる。洪水を引き起こした神の怒りは祭りの音楽で宥められるだろうか?


箱舟から出てきたノアの家族、その子孫は全世界に広がった。神はノアと彼の息子たち、さらに全ての生き物と契約を立て「二度と洪水によって肉なるものがことごとく滅ぼされることはなく、洪水が起こって地を滅ぼすことも決してない」(創9:11)と言う。


だが我々は契約を忘れていたのではなかったか?

「ただし、肉は命である血を含んだまま食べてはならない。」(創9:4)

 

2013年9月25日水曜日

 
 

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