大多喜町庁舎
大多喜町庁舎
千葉県大多喜町庁舎 今井兼次設計 1959年
12m×60m×2層+ペントハウス。羊羹のように単純なRCの直方体に直交して、4m×25mぐらいの、長いエントランスキャノピーが構える。
キャノピーのスラブは湾曲蛇行する梁に載っていて、スラブの厚みは梁中心線からの距離に応じて変化する。角柱は梁がスラブのエッジに近づくポイントに置かれ千鳥に配置される。スラブの厚みの変化と千鳥柱の相乗効果、そして土地の勾配が視覚的に効果を生み、水平移動しながら建物に近づくにつれキャノピー全体が柔らかく動いているようにも見える。建物から離れたキャノピー端部には石塁が築かれており、束1点で支えられたキャノピーそのものは石塁から軽々と浮かんでいる。このキャノピーこそが設計の中心課題で、建築本体はオマケのようだ。
でもオマケの内部も見てみたい。土曜日なので役所の窓口業務はお休み、一般の人は建物内に入ることは出来ない、筈なのだが当方一般の人ではない。30年前、製図の授業でわけが分からないままこの建物の図面を描き写した経験あり、なのである。堂々と、しかし音をたてないように電源の切れている入口の自動ドアを手動で開け、そ〜っと入ってみる。誰も気づかない、SECOMも鳴らない。
階段を上ってみることにする。今や単なる物置になっているペントハウスから屋上に出てみると、鮮やかな陶片モザイクが目に飛び込んでくる。普段全く見られることの無い場所だ。「着物の裏地に凝る」的美意識なのか。気づかなかったが後で調べたところによると、ペントハウスの屋上面は全面陶片モザイク、なんと空からしか見えない『二双の鶴』の絵で仕上げられているらしい。
「隠れているもので、あらわにならないものはなく、秘められたもので、公にならないものはない。」(マルコ4:22)
雨の大多喜町庁舎の周りをコウモリ傘持ってぐるぐる回っているうちに、この施設の本当の中心は正面エントランスから見ると裏側にある塔ではないかと思い至った。エントランスキャノピーに近づきながら庁舎の直方体を眺めると、背後の塔がまるで歩く生き物のように大きく動いている感じがする。この動きの感覚が柔らかなキャノピーと呼応して、敷地内の建築全体を一つの有機体としてまとめている。この塔はチャイムやスピーカーが外され今では本来的機能を失っているが、我々に塔存在の意味を問い続ける純粋な塔としてそこに立っているようだ。
悲しいかな倉庫にしか見えない庁舎の新館が脇に近づき過ぎていて、塔が窮屈そうだった。
2013年5月13日月曜日