日本の民家1955年@汐留
日本の民家1955年@汐留
二川幸夫が二十歳そこそこで全国を行脚しながら民家の写真を採集した力技。写真を宙に吊るした藤本壮介さんの展示も良い。大きなプリントの前に立つと、自分が撮影者二川幸夫と同じ場所に立っているかのような錯覚に襲われる。写真集を机の上に水平に広げて視線を下に向け、うつむいて見るその感覚と、大判のプリントを垂直に立てて見る展覧会とでは、同じ写真を見てもまるで印象は異なる。写真を見る時、それを撮った時のレンズ光軸と同じ角度に見る視線角度を合わせると、何かのスイッチが入って一気に撮影の瞬間に向かって時空移動出来るのだ。20代の二川幸夫に変身出来る。
適度に説明的な画面には、建物が写っているだけではなくて、時代そのものが焼付けられている。こういうことは写真にしか出来ないだろう。
大地がそのまま盛り上がったような合掌造りの茅葺き屋根が、夜露を含み、朝日を浴びて蒸気を放出している。しばらくしたらこの家はノッシノシと動き出しそうだ。家は自然そのものである。画面にプラスチックは写っていない。電柱はあるが、全て木で出来ている。勿論地面は舗装されていない。1955年、日本は美しかった。
美とは無縁の、超高密度の高層ビルが林立する汐留の一角で展覧会が開催されている。写真が残した滅び消えゆくものの記憶は、懐かしむだけではあまりに悲しい。
2013年2月18日月曜日