ウガイ

 


「あ”~」とか「え”〜」とか、声を出しながら、裕希が盛大にウガイをしている。「声出さなくても、ウガイ出来るって知ってる?」と訊くと、キョトンとした顔。ウガイは大きな声を出しながらじゃないと出来ないものだと思い込んでいたらしい。ボクと同じだ。


声を出さずにするウガイがあると知ったのは大学院生の時、エジプトはルクソールだった。砂漠の作業から戻って砂っぽいノドをスッキリさせようと、音程Dぐらいで「あ”~」と賑やかにウガイをしていたら、渡辺保忠教授が洗面所に来て「それ気持ち良さそうだねえ。僕も声出してウガイしてみよう」と仰る。察しのいいボクはそこで一瞬にして悟ったのである。ウガイは、もしかしたら声を出さずに出来るものなのかも知れないし、そっちが正統的なウガイ法なのかも知れない。上を向いて楽しそうに声付きのウガイをしている教授を残し、後ずさりしながら立ち去ったが、脳天に一撃を喰らったような気がした。これまでのボクのウガイ人生は何だったのだろうか?


翌日、同じ洗面所で恐る恐る試してみたら、なんだボクにも出来るじゃないか、無声式ウガイ法。これからは人知れずウガイをすることが出来る、新しい人生を歩み始めることが出来る。


だけど、時々大きな声でウガイする時の爽快感は何ものにも代え難い。

 

2013年1月13日日曜日

 
 

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