レクイエムの集い2012
レクイエムの集い2012
金曜夜は目白のカテドラルで毎年恒例の「レクイエムの集い」 ~J.S.バッハの真作及び偽作によるプログラム~ を聴衆として。
長年バッハの作曲だと思われていた曲が、後世の研究によって実は他人の作曲だったと分かる。そのような偽作と呼ばれる曲をいくつか混ぜながら、最初と最後をBWV118のモテット(真作)で締める工夫に満ちた配置のプログラム。
偽作とはいえ演奏された曲はそれぞれ魅力的だ。職人・バッハの作曲法が数学的とも言える厳格なものであるがため、能力のある作曲家がその気になればバッハ風のものは作れたのかも知れない。
偽作の曲のことから、建築の世界でパッラーディオ(1508-1580)に対してパッラーディアンと呼ばれる模倣・追従者が多数出現した、その状況との類似/相違を思う。パッラーディオが建築設計の理論を『建築四書』というテキストとしてまとめているのに対し、バッハの残したテキストは楽譜そのものだ。『建築四書』は多数の挿絵が入った視覚に訴える書物であるが、バッハの楽譜は、演奏という一旦音に置き換える作業を経ないと、聴覚芸術としての姿を現さない。追っかけの多いパッラーディオに対し、バッハはその晩年にはすでに時代から取り残されたと思われ、忘れ去られようとしていた。一般に視覚的なことは伝達し易く、対して楽譜に残された音の神秘は伝わりにくい。
それはともかく、コンサートの最初と最後を締めたBWV118は、ポストホルンやサックバットといった金管楽器が活躍し、地上にいながら無限の上昇感を味わうことができる。この感覚が、会場であるカテドラルの内部空間によって、より増幅されていたのは間違いない。建築と音楽が幸福のうちに一体化した瞬間だった。
2012年11月19日月曜日