車内にて

 


向かいの席に座っている男、どこかで会ったことがある。もしかすると知り合いかもしれない。


総武線の車両は、彼の座っているところを中心にして同心円状にやけに空いていた。その姿や所持品が、ホームレスの標準的ないでたちそのものだからだろう。ズボンの裾から見える脚は酷い皮膚疾患に罹っていて、意図的にそれを晒している風にも見える。時々独り言を呟き、そのことがまた人を遠ざけてしまう。それで難なく向かいの席に座れたのだ。


徐々に車内が混み始め、おしゃべりに熱心なおねえさま方と、タッチパネルに集中している携帯依存症候群は彼のすぐ隣に座ろうとする。気づいて立ち上がる時のおばはん・ケータイの一連の反応を向かいの席から見ていると、人類愛への無限の距離を思い知らされる秋の夕暮れであることよ。


思い出した。彼の名はカール・マルクスだ。

 

2011年11月22日火曜日

 
 

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