久住親方
久住親方
左官職人の親方、久住有生さんと会う。この国でCARLO SCARPA や BERNINI の話が出来る人に出会うのは稀な事だ。
現代建築は、時間と金を最優先する経済原理主義の下、現場以外の場所で技術を磨いてきた。標準化された工業製品を多用することで現場での作業時間を圧縮し、高度な特殊技能を求めない簡単な施工方法で施工者の手配を容易にしてきた。2x4の規格住宅などがその典型だろう。そしてそれは、時間がかかる伝統的施工方法を建築の現場から追い出すことに成功したかに見える。左官の作業をどれだけ「しないか」が金を削るための一つの条件と考えられるようになる。高度成長期やバブルを通過して、住宅メーカーのみならず、建築家と自称する我々自身も、時間と金の圧縮があたかも建築にとって一番大事なことであるかのような錯覚に襲われることもひとたびではない。
200本の鏝を自在に扱う左官職人になるには、経済原理では割り切れない贅沢な時間を積み重ねる必要がある。優れた文化遺産を世界に訪ね、触れることも必要だろう。その上で、鏝を身体化するまでには、楽器演奏者やアスリート達にも通じる継続した努力をするしかない。
流れに逆らう生き方を選択するためには、強い意志が欠かせない。それを支えるのは哲学だという人もあれば、信仰の場合もあるだろう。目の前に生き生きとした久住さんがいて、ややこしい事を感じさせない突き抜けた笑顔で食事をしている。彼の作る壁に囲まれてみたいと思う。
2009年8月6日木曜日