これまでのこと


レオンハルト・オイラー

ルイス・キャロル

フリードリヒ・ニーチェ

フィンセント・ファン・ゴッホ

フランク・ロイド・ライト

マーヴィン・ゲイ


彼等同様、生まれてみたら牧師の子でした。

プロテスタントの教会。木造の簡素な建物。讃美歌。


小学生の頃、無理を言ってヴァイオリンを習わせてもらいました。


小学校の修学旅行で東京に。代々木の体育館を見ました。(見たような気がしました。)高校のときに盲腸で一週間入院。そのときに父親が「丹下健三」という作品集を病院に持ってきて、あの体育館が丹下健三の設計したものだと知ることになります。


早稲田の建築学科に進学。早稲田にはオーケストラがあって、演奏旅行で海外にまで行っているといううわさは伝え聞いていたので、迷わず入団。ヴァイオリンを抱えて、理工学部ではなく、練習場所のある本部のほうに通う日々。3年のときに、希望通りヨーロッパへ演奏旅行。ベルリン・フィルハーモニー、ヴィーン楽友協会大ホール、プラハ・スメタナザール、パリ・サルプレイエル・・・嗚呼、恥ずかしい。先生も友達も自分もだましだまし、皆様のお蔭様で、大学院に進学。


建築史の研究室はエジプトに行ったりしてる、といううわさを聞いて迷わず入室。希望通りエジプト・ルクソールで遺跡発掘の日々。2年になったら、タイのスコータイでの遺跡調査。卒業が近づいて、ほかの皆は進路が決まっていたのにもかかわらず、迷いに迷い進路を決めかねていた僕に、中川武教授が「イソザキアトリエでエジプトの仕事やってるらしいから、バイトで行ってみたら?」磯崎さんは、あの丹下さんのお弟子さんです。


当時、磯崎さんのところでは、「エジプト文明史博物館」のインスタレーション(展示計画)をやっていました。大学の六年間は砂を掘ってばかりで、まともに建築設計の実務をやったことのない僕にも、これならお手伝いできると思い、最初はバイトとして通うことに。卒業間際に磯崎さんのインタヴューを受けて所員になりました。磯崎アトリエでは、実に個性豊かな方々がそれぞれ勝手に動いていました。オルガンの演奏者は磯崎さんだけど、右手・左手・右足・左足 みんなそれぞれ別の旋律を、時間差で奏でている感じ。フーガです。


エジプトの展示計画は長期の休止状態に入り、その後は磯崎さんの回顧展を準備することになります。アトリエの青木宏さんに手取り足取り教えていただきながら、磯崎さんのこれまでの仕事全てを資料としてまとめることから始まり、展示のための木の模型製作、シルクスクリーンの準備、建物・模型の撮影、カタログの編集、そして初めての建築設計・茶室「有時庵」。

石元泰博(写真)

石田了一(シルクスクリーン)

石黒昭二(模型)

中村外二(数奇屋)

いきなり大御所の面々と直接仕事をさせていただくことになり、おろおろするばかりでしたが、展覧会が始まり、カタログや書籍などの成果が世に出ると実に嬉しいことでした。


次に担当させていただいたのは、岡山県奈義町の現代美術館。ここでは、

荒川修作+マドリン・ギンズ

岡崎和郎

宮脇愛子

の3作家に、まず作品を構想してもらい、その上に屋根を架ける、「奈良の大仏方式」の手順で建築を計画。またしても、大御所オンパレード。


磯崎さんのところで最も時間をかけ、最も記憶に残ることになる仕事は、カタールの「シェイク・サウド邸」です。足掛け6年にわたり、砂上の楼閣、いや砂漠に住宅を計画する仕事。施主の逮捕によって着工目前で突然の休止に追い込まれましたが、この仕事もすごかった。


フィリップ・ジョンソン

ジャン・ヌーヴェル

キャサリン・フィンドレイ

マーサ・シュワルツ

デイヴィッド・ホックニー

アニシュ・カプーア

アンゼルム・キーファー

アントニ・タピエス

チリーダ

ソル・ルウィット

リチャード・セラ

クリスト&ジャンヌ=クロード

サイ・トンブリ

ジェフ・クーンズ

ブリジット・ライリー

リチャード・ロング

エルスワース・ケリー

サンチアゴ・カラトラヴァ

アキッレ・カスティリオーニ

アントニオ・チッテリオ

エットーレ・ソットサス

ゲーリー・チャン

ジョン・ポーソン

マーク・ニューソン

ロン・アラッド

トム・ディクソン

ヴィコ・マジストレッティ

・・・・・


どど~ん。大御所怒濤のガブリ寄り。でかい家に部屋をたくさん作って、それぞれの部屋のインテリアデザイン・アートワークを、時代を代表する大御所の方々にそれぞれ担当してもらう、という内容。あれよあれよと言う間に企画が膨らんで、上記の名簿に。



磯崎アトリエ在籍中は、ほとんど楽器に触れることができず、音楽に接する機会も極端に減りましたが、独立して40肩の呪縛も解けはじめた頃、シュッツ合唱団/ユビキタス・バッハを率いる淡野弓子さんから声をかけていただいて、再び演奏者として音楽に関わることになりました。08年からはバロック・ヴァイオリンを弾き始めています。


「音楽」は、極大(宇宙)から極小(素粒子)レベルまで、全てのものの構成が、同一の法則で貫かれていることを実感させてくれる唯一の表現方法です。良い師に恵まれ、今はそのことがおぼろげながら感じられるようになりました。音楽の先人が組み立てた「音」「振動」「響き」の人為を超えた天然の法則は、「建築」の領域の問題をも鋭く貫いています。「建築」は、その同一の法則をこれからどう受け入れ、どうふるまうべきなのか、音楽が投げかけている問いに答えなければなりません。ゾクゾクするほど面白い課題です。


(2009.03.19)