印刷

 


新宿の金券ショップの前に人だかりができている。年賀はがきを一枚43円で売っているようだ。どうしてそうゆうことが可能なのか?郵政の誰かが横流ししているのかな。あるいは余った今年の分を叩き売りしてるのか?お札程に偽造のチェックは厳しくないだろうから、金券ショップが独自に印刷しているのかもしれない。んなわけないか。


子供の頃、賀状作りは家族の共同作業だった。ボクが彫った版画を父と二人で摺る。父の篆刻による印を押し、仕上げは母の書による宛名書。宛名の墨が乾くまで畳の上に拡げたはがきの景色が年末の風物詩だった。干支ひとまわり以上続いただろうか。当時は確かに時間がゆっくり流れていた。


教会の牧師であった父は、毎週末週報を作っていた。週報は日曜の礼拝で配るプログラムのようなものだ。今のようにコンピューターもプリンターも、コピー機すらない時代の印刷術は、ガリ版だった。針でロウ紙の表面にガリガリ線を刻み込んでいく。その原紙を、木枠にシルクスクリーンを張った謄写版に取り付け、インクを付けたローラーで上から押し付けると、下に置いた紙に削った部分だけインクが透過し文字や絵になる。このローラーの作業を印刷部数だけ繰り返す。部屋に響くガリガリ音とインキの匂いが毎週末土曜日にやって来た。


賀状制作も週報印刷も、作業の原理とその工程が全て視覚的・聴覚的・嗅覚的・触覚的に脳の海馬に沈み、甘い記憶になっている。ボクたちの子供の世代には、何が記憶として残っていくのだろう。

 

2010年11月9日火曜日

 
 

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