タイ

 


台風が来ると、タイの熱帯を想う。学生時代、スコータイ王朝(13〜15世紀)の仏教遺跡調査で滞在したことがあり、それ以来親近感を抱いているのだ。


研究室の仲間6人の調査隊。昼間は巻尺や野帳を持って熱帯の遺跡を駆けずり回り、夕方まだ明るいうちに雨期の激しいスコールを避けるため、チャーターした3輪タクシー・トゥクトゥクに乗って慌ただしくホテルに帰る。帰路、片腕のドライバー・バチョッが振り返るその視線の先を見ると、広大な水田の彼方、青い空の下の方から黒い塊がモコモコ迫ってくる。豪雨と晴れのきっぱりとした境界線が、いつもトゥクトゥクより少し早い速度で、何故か同じ方向目指して進んでくるのだ。


黒い塊に気づいて数分経つと、トゥクトゥクは逃げ切れず土砂降りのまっただ中。客席の幌をしっかり握りしめて視界0の畦道を走り、ホテルに着く頃には雨もあがる。


「リバービューホテル」は当時外国人が泊まれるスコータイ唯一のホテルだったような気がする。スコールで瞬時に増水し、コーヒー牛乳色の濁流になる細い川に面してテラスがあった。調査から帰り着き、そこで飲った黄昏時のシンハビールは、他のものと比較できない。こんな日課を1ヶ月以上繰り返し、日本生まれのタイ人が出来上がった。


このところ、日本もほとんど熱帯になりつつある。建築的には、暑くてジメジメしてゲリラ豪雨で問題だらけなのだが、シンハは美味しくなるかもしれない。

 

2009年10月8日木曜日

 
 

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